南長野歯科医院・住宅

棚部 裕貴

[建築の構成について ]

長野市郊外の水田と白桃畑が広がる農村に建つ歯科診療所と住宅の計画である。

一枚のコンクリートスラブがジグザグと折れ曲がり、3つの内部と2つの外部を形成する。3つの内部は、それぞれ住宅、診療所、待合の機能を持ち、2つの外部に挿入されたガラスの箱がこれらをつなぐ。医師の職住分離と患者の治療に対する緊張緩和のため、住宅と待合をそれぞれ診療所から分離し、別棟とすることを求められた。一方で、敷地は市街化調整区域内にあるため、住宅を建築するための都市計画法上の要件として、これらを構造上一体化し、住宅を診療所の付属施設として扱う必要があった。一枚のスラブによる構成は、これらを同時に満たしている。

2つの外部にはガラスの箱が挿入され、3つの内部をつなぐ通路として、主要な出入り口としての役割を果たしている。出入りは南北両方向からすることができる。これは、通風と、東側の計画道路が開通し、駐車場を南側空地へ移設した場合のアプローチ動線の変化に対応するためである。

農村の美しい風景に対して素直に10m開口し、良好な眺望が治療の痛みや恐怖心を和らげることを期待している。斜めに張り出した庇は、診療に支障のないよう日射を遮る。

[ 建築の長寿命化について ]

建築そのものの長寿命化と同時に、建築が時間と共に変化する自身や家族、周辺環境に追従できる、構造・プログラム両面でのサステイナブルデザインを目指した。クリープをPC緊張材でサポートすることによって長期変形ほぼゼロを確保した最大スパン10mの完全に柱型・梁型のないコンクリートのスケルトンと、容易に解体・再構築が可能な木材と軽量鉄骨によるインフィルで建築を構成することによってこれを満たしている。ガラスの箱もまた、解体・再構築することができる。子供の成長や自身のリタイヤ、相続など、様々な理由によって、用途転換、賃貸、分譲など、様々な様態に変化する可能性を秘めている。

[ 建築の認知について ]

建築が地域に認知され、人々が集い、診療所が健全に運営されることが求められた。この地域では広告設置が厳しく規制されている。広告に頼ることなく、農村の風景に馴染みながらも、通りがかりの人々の記憶に残るような、そんな建築の表現を目指した。建築が風景に対して主張しすぎないよう、平屋建てとしている。壁面の光触媒白色塗装は、周囲の伝統的な家屋の漆喰壁と協調させつつ、水田の緑や黄金色、青空に映えさせることを狙ったものである。夜間は、住宅・待合の白熱灯の柔らかな光と、診察室の蛍光灯のきらびやかな光が、コントラストを織りなしながら浮かび上がる。